「もう買わない」を受け入れる信念とじんわり死んでいく地獄


今朝の日経MJの1面、良かったです。

「ユニ・チャーム 生理用品、なんで隠すの?-批判も覚悟の 勇敢マーケ」
https://twitter.com/nikkeimj/status/1174635494677704704?s=20

ユニ・チャームが今年の6月から始めた「#NoBagForMe」が報じられています。
ドラッグストアなどで生理用品を買うと、隠すように透けない袋に分けて入れられるが「なぜ隠す必要があるのか」というメッセージを発信するプロジェクトです。

 

これまで当たり前と受け入れてきたことを問い直すことで、生理について気兼ねなく話せる、ライフスタイルの多様化に伴って生理用品の選択肢を広げることのきっかけづくりが狙いで、著名なインフルエンサー達をアサインして意見をもらい、隠さなくてもいいパッケージの開発に取り組んだそうです。

 

立ち上げ直後はSNSを中心に辛辣な意見が飛び交ったみたいです。
「私は隠して欲しい。こんなプロジェクトを続ける限り、もう買わない」

 

もう買わない。

 

この意見、ずーん、、、と来るものがあります。
この「もう」から、「これまで買ってくれていたお客様のことば」ということが読み取れますので、単に「買わない」よりも、芯に来るずーーーん、、、、です。いままでファンだったお客様に嫌われたわけです。

 

ですが、ブランドマネージャーは制御不能を引き受けるという姿勢を貫徹、「自分事として捉えてもらうためには強い言葉で“当たり前”を否定することが必要だった」と語ります。

 

とても良いと思いました。

 

いまマーケッターにとって、最大の関心事であり、お悩みポイントは、お客様の多様化にあわせてどこまでカスタマイズに付き合うか、そのコストと収益のバランスです。

 

マーケット環境が「多様化」「複雑化」していると言われて久しいですが、それはつまり「みんなに好かれることが不可能になった」ということを意味します。

 

そりゃそうです。色んな人がいて、メディアもめっちゃあって、複雑な購買行動が氾濫する中、全国民が買う商品を作ることは現実的には不可能です。

 

全員のカスタマイズに付き合うこともまた不可能なので、そうなると、ある程度、お客様を絞って、その方々に向けて商品をお届けする必要があります。

 

絞れば絞るほど、お客様に届く可能性は高くなりますが、その分、全体のパイは小さくなるので収益は下がり、またカスタマイズにコストもかかります。どこでバランスをとるか、マーケッターが頭を悩ます、損益分岐の予測が大変に難しくなってくる構造がこれです。

 

このカスタマイズ性をテクノロジーで解決しているのが、GAFA軍団に代表されるIT企業なわけですが、製造に時間もコストもかかるナショナルメーカーの場合は、特定方向への絞り込みやカスタマイズへの意思決定はそう簡単にはいきません。ゼロサムの賭けみたいなもんです。怖くてたまらんです。

 

となると、どうしても、とりあえずいまのお客様を逃がさないような、中庸なプロダクトになってしまいます。その結果、嫌われもしないが、好かれもしない、特に関心をもたれないという状況が生まれ得ます。

 

マーケティングにとっての地獄は、お客様に嫌われることではなく、無関心でいられること。言い古された金言ですが、今ほどその意味がずしと来る時代もないもんです。実績のある商材であればいきなり売れなくなることはありませんが、じんわり死んでいく、そんな行く末が伺えます。

 

これらのことを踏まえると、
ユニ・チャームがすごかったのは、以下の5つです。
(1)マーケティングの地獄をきちんと理解していたこと
(2)単に売るだけでなく、そのプロダクトを通じてこうした社会になって欲しいと明確に像を描いたこと
(3)その社会をつくるために、信念をもって世の中に投げかけたこと
(4)言うだけでなくプロダクトを改良したこと
(5)自社への批判は甘受しつつ、信念に基づいてプロジェクトを取り下げなかったところ

 

「もう買わない」を受け入れる信念は相当なものです。「もう会わない」「モウコナイデネ」「もう子供じゃないんだから」。「もう」ってすげぇ怖い。もう「もう」って言うなよ。

 

けど、その怖さを乗り越えないと、じんわり死んでいくだけの地獄が待っています。だれにどんな価値を届けて、どんな社会にしたいのかを明確にすることは、裏を返せば「あなたには“もう”これは合わないかもしれない」と表明することでもあります。

 

さて、みんなに嫌われないマーケティング、まだ続けますか?


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